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大きな石が転がり出すまで。純粋な好奇心が物事を生み出す。

坂の下から大きな石が転がってくるとする。
それを見て「やっぱり坂道では石も転がるわな」と坂の下の人は思う。

一方、坂の上の人は「やれやれ、ようやく転がったわい」と一息ついている。
なぜなら、デコボコの石を坂の下に転がすために、テコの棒をつくったり、仲間を呼んできてみんなでよっこらしょと石を押してたりしていたから。
その大きな重い石が転がるまで、坂の上の人は延々と試行錯誤を繰り返していたとさ。

「…えっ、いきなり何でそんな話?」

えーと。「物事をイチから始めて軌道に乗せる」ということのたとえ話なんだけどね。

「あの石、転がしたる!」という覚悟

半年前からはじめた「こうじづくり講座」、いつの間にか200名近くの人にこうじ菌の育て方を教えていました。特に5月からはほぼ毎週末ワークショップに精を出し、家の倉庫には発泡スチロール箱と温度計が溢れかえり、ヤマト運輸と法人契約を交わすにいたり「あれ?僕の本業なんだっけ?」と呆然とするほど「こうじづくり」に情熱を注いでおりました。

(facebookのタイムラインを見ている人なら「ヒラク君毎週こうじつくってるな」と思っていたはず)

今年春に出版した「おうちでかんたん こうじづくり」。企画をしている段階から「これは大きな石を転がす仕事になるな」と思っていました。

前作「てまえみそのうた」の時は、手前みそづくりという「既に認知されている文化」があったので、とりあえず企画の主旨はわかったもらえた(とはいえ五味醤油の5年間にわたる手前みそワークショップツアーの功績は大きいけど)。

翻って「手前こうじづくり」はどうよ。
そんなことが一般家庭でできるなんて思われてなかったし、そもそもそんな発想自体がなかった。よってニーズもなければマーケットもない。何もかもゼロなわけですよ。
たまたま発酵デザイナーが思いついただけで、別に社会の課題を解決するものでもないし、自分以外に興味を持つ人がいるかどうかすら不明。

普通なら視界にも入らず、入ったとしても日除けに使ったり、ひと休みする時によっかかったりする程度のでっかくていびつな石を「これ、坂の下まで転がるんじゃね?」とふと思い立ってしまったわけです。

石が転がりだすまで

その石はだいたい重さ数十トンはありそうで、自分が押した程度ではうんともすんとも言わない。

しかし転がしたい。
どうするか。

まずはテコの原理だ。木を倒して削って、ながーい棒をつくる。これがまず「メソッドの開発」ね。普通の人でも再現性が高い、安定したレシピを検証・開発する。

棒ができたら今度はそれに乗って石をちょっとだけ浮かす。これが「本の出版=メソッドを拡散する準備」なのですね。

で、ほんのちょっとだけ石が浮いた。そこを見計らって、なるべくたくさんの仲間で「うんこらしょ、よっこいしょ!」と石を押す。これが「ワークショップで他の人と一緒にこうじをつくる」こと。

この段階って、坂の下の人から見ると「何も起こってない状態」なんですね。
ごく少数の人が「あれ、なんかあの石、ちょっと揺れてねえか?」と気づく程度。だけど、坂の上では祭りが始まっているわけさ。10人、100人、200人と押す人が増えていって、例えばそれが1,000人に達した時、石が「ゴロッ」と転がり出す。とはいえいびつな石だから、一回転くらいしかしない。けれども、転がった勢いを利用してみんなで押したら、じわじわ坂を転がりだす。

そしてある瞬間、大きな大きな石が勝手に坂を転がり出す。ゴロンゴロン。

なんで石を転がしたいのか?

そんでは話を戻すぜ。
現状、僕の仕事のなかで現状いちばん大変で実入りが少ないのが「こうじづくり」。
にも関わらず、一番の時間と手間を割いている。

それはなぜか。
「でっかい石を転がしたい」から。

なんで転がしたいかは、よくわからない。
みんながこうじ菌を育てるようになったら社会が良くなるかというと、それもよくわからない。転がした結果マーケットができて儲かるとか、そういうのもどうでもいい。

自分を発酵デザイナーへの道へと駆り立てた「純粋な好奇心」が「あの石、転がしてみなっせ」と僕をそそのかしているのであるよ。

「なんて無責任なヤツだ。自分の趣味に何百人の人を巻き込むなんて」

いや全くおっしゃる通り。なんで僕はこんな事に夢中になっているのだろうか。微生物たちに脳みそをハッキングされているとしか思えない。

しかし祭りは始まってしまった。最初の「ひと転がり」は目前だ。よくわからない熱狂が、僕とこうじづくりコミュニティのみんなを支配しているのであるよ。
あとは押すだけ、うんこらせ、よっこいせ!

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