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『火の鳥 未来編』のバイオ・アップデート版はこうなる!放射能では生命は滅びない

西暦3404年。人類は人工知能による誤判断が引き起こした核戦争で滅亡する。©手塚治虫

核戦争で生命が滅びるだろうか。答えはNOだ。

マンガ界の巨匠、手塚治虫のクラシック『火の鳥 未来編』を読んでいたらば、発酵デザイナー的に見過ごせないトピックスが出てきてしまったので、ブログにまとめておきます。

放射能では生命は滅びない

手塚作品のなかでもとりわけスケールの大きい『火の鳥』。そのなかでもさらに生命の核心に触れる未来編。描かれたのは1960年代だが、その後50年間の生物科学の激しいアップデートにより、実はこの物語には異なる展開があり得ることがわかった(←主に僕のなかで)。

↓↓『火の鳥 未来編』のあらすじをwikipediaから引用するとこんな感じ↓↓


 西暦3404年。時間軸で考えた場合の火の鳥の結末にあたる作品。人類は25世紀を頂点として衰退期に入り、文明も芸術も進歩が少しずつ停止、人々は昔の生活や服装にばかり憧れを抱くようになり、すでに30世紀には文明は21世紀頃のレベルまで逆戻りしていた[7]。地球人類は滅亡の淵にあり、他惑星に建設した植民地を放棄し、地上に人間はおろか生物は殆ど住めなくなっていた。人類は世界の5箇所に作った地下都市“永遠の都”ことメガロポリスに移り住み、超巨大コンピュータに自らの支配を委ねていたが、そのコンピュータも完璧な存在ではなく、コンピュータ同士で争いが起き、メガロポリス「ヤマト」と「レングード」の対立[8]から核戦争が勃発、超水爆によって地球上のあらゆる生物が死に絶えた。生き残ったのはシェルターに居た主人公の山之辺マサト達数人であった。そこで山之辺マサトは火の鳥に永遠の命を貰う。仲間達が次々と死んでいく中で山之辺マサトは死ねない体のまま苦しみ、悶えながら生き続ける。途方も無い時間をたった一人で過ごす中で、マサトは地球の生命の再生を求め続け、やがて一つの答えにたどり着く。


 

問題となるのは、『超水爆によって地球上のあらゆる生物が死に絶えた』という部分である。
これは言い換えると「多量の放射能により生物が絶滅した」ということなのだが、これは現実としてはあり得ない。

Deinococcus_radiodurans
微生物界の中には放射能にやたら強いタフなヤツがいる。
そのなかでも、デイノコッカス・ラディオデュランスというバクテリアは、人間の致死量の数千倍の放射能に耐えることができる。ここまででなくても、地上の自然環境に存在し得ない放射線量のなかでも活動できる微生物は複数種存在が確認されている。

もう一つ。地上がダメでも水中や地下深くにもいっぱい生物がいる。
仮説として、動物や植物が生きていける地下や水中の世界がダメになってしまったとしてもさらにその奥底にある、今まで生命が住めないと思われていた海底火山や空気の存在しない地底にも微生物がいっぱいいる(一説によると、地上と同等かさらに多数とも言われている)。

この事実を踏まえるに『火の鳥 未来編』の絶滅は「地上における動植物の絶滅」と定義しなおすことになる。もうちょい専門的に言い換えると、比較的高度に進化を遂げた多細胞真核生物の絶滅であるのだが、放射能耐性の強い原核生物や地上から隔離された古細菌類はいまだサバイブしているはずなのであるよ。

50年後の『火の鳥』ではどんな展開があり得るのか?

さてでは50年後、2010年代の『火の鳥 未来編』のアップデートストーリーを想像してみよう。まず、超水爆による人類の滅亡まではオーケー。全然あり得る(起こってほしくないけど)。

そこで滅亡を免れた主人公マサトと猿田彦博士は何をするのか?
まずはコロニーの外、多量の放射線が蔓延する世界でも生きのびている微生物を採取する。そしてその微生物(たぶん前出のデイノコッカス・ラディオデュランス)の遺伝子を解析し、その放射線による破壊を防ぐDNAの構造を取り出し、マサトのパートナーであるムーピーを使って遺伝子組み換え実験を行うであろう。

やがて首尾よく放射能耐性をもったムーピーが生まれたら、人間(たぶんマサト君のクローン)のDNAとかけあわせて、ムーピーばりに長寿命でかつ放射能耐性のあるキメラ人類をこさえる。

その次はどうするか。
恐らく地底や海中にいる光合成細菌やメタン生成菌のDNAを改変し、高放射線下でも酸素や生物が繁殖するのに必要な物質を生成できる環境をつくる。
すると再び地上には緑が生い茂り、放射能耐性をもった単細胞生物から進化した虫や魚や爬虫類、哺乳類などが登場し、一度止まった生命の時計の針はふたたび巻き戻されるのであった―

しかし実はそこにはアナザーストーリーもある。
滅亡を免れたのはマサト君だけではなく、実は放射能の届かない地中深くにコロニーを建設した一族もいた。彼らもまた遺伝子工学を駆使し「光合成しなくても酸素をつくり出す生命代謝」を進化させる。地底の古細菌の遺伝子を組み替えることで、人間や家畜などが生きるエネルギーを生産する技術をつくり出し、放射能の届かない世界にユートピアを築くのであるよ。

なんだけど、地底の一族にとって地上は「失われた楽園」だった。
その奪還をもくろむため、人工知能を搭載したロボットに「放射能を無効化するバクテリア」を詰めたカプセルをもたせ、地上へと送り出す。しかし、もはや放射能無しでは生きていけなくなってしまった新人類にとって、そのバクテリアは生物兵器でしかない。

そして勃発する地底の一族と地上の一族による人工知能を介した代理戦争
その結末やいかに?

…という話を、トマス・ピンチョンかSF黄金期の椎名誠の末裔みたいな人がつくったりしないのかしら?

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