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『孤独のグルメ』に見るベストタイミングの見極めと、こじらせ女子の呼吸と見切りがファストすぎる件について。

「ちょうどいいタイミング」を見極めるののはとても難しいことだ。
遅すぎてもいけないし、早すぎてもいけない。

こういう「タイミングのはなし」でよく出てくるのが「転職」のトピックス。「今やっている仕事は違うなと思いつつ、リスクを取れなくて躊躇しているうちに年齢や家族の問題でリスクが増大し、ますますアクションできなくなる」というのが「見切り遅すぎ問題」の典型。

で。
「お前遅すぎなんだよ」と説教かます側がハマりやすいのが「見切り早すぎ問題」だ。
これは事業をやっている人に散見される問題で「あともうちょい我慢していれば…」というところで努力の結果を見切ってしまったりする。

「孤独のグルメ」におけるランチ選びの超絶スキル

この傾向は、ビジネスだけでなく色んな領域に影響する。

例えば「ランチをどこで食べるか」というケーススタディで考えてみよう。
「自分が何を食べたいのかがわからず、一通り近所の店を全部見た後に無難な店を選び、結果そんなに美味しくない」というのが「遅すぎパーソン」。
「自分が食べたいものはハッキリしているのだが、その店に行き着くまで我慢できず、結果目当ての店の隣の隣くらいにある無難な店に入り、結果そんなに美味しくない」というのが「早すぎパーソン」の典型であるよ。

この時に、両者が見習わなくてはいけないのが『孤独のグルメ』の主人公、井之頭五郎だ。
彼は「食べたいものはあるが、何を食べるかはフィックスし切らない」という絶妙に欲望を保留した状態のまま「なんとなく目についた店にスルッと入る」ことで無駄な徘徊を防ぎ、「メニューの組み合わせにより自分の欲望の満足度を最適化する」というリスク回収を行う。

これぞ達人の妙技だ。
「遅すぎ野郎」の弱点である「意思決定力」と、「早すぎ野郎」の弱点である「我慢&調整力」の不足を見事にカバーしている。

「適切なタイミングを見切る」というのは、「瞬時にパーフェクトなものを見抜く」ということではない(あるかもしんないけどそれできる人はたぶん生まれつき天才)。

まず「外れじゃないレベル」を選択し、事後的に「パーフェクト目指して調整する」という合わせ技によって「サラッと選んだように見えて自分の欲しいものをちゃんとゲットしている」ように見えるのであるよ。

こじらせ女子は呼吸も見切りもファストすぎる

ここまで読み進めている賢明な読者の皆さまなら予想はつくことだが、この問題は人間関係(特に男女関係)でも頻繁に起こる。

特にこのブログの読者層の中核を成す「こじらせ女子」を苦しめるのは「見切り早すぎて詰む問題」と「あきらめ早すぎて自爆問題」だ。

そう。こじらせ女子はその「呼吸の速さ/浅さ」と呼応するように見切りもファストすぎる。
ファストパーソンにはプレミアムシングは手に入らないのが世の真理だ。

「見切り早すぎて詰む問題」から解説する。
これは「中途半端にモテるガール」の前に姿をあらわす悪魔であると言えよう。今のステディな彼氏でも幸せなのだが「もしかしたらもっとプレミアムなガイがいるかも」という「未来への妄想」に囚われ、よくわからないタイミングで現況のナイスなガイを手放してしまう。

ここで起こる問題の本質は何か。

二人の周りのコミュニティの構成員にとって、その別れは「不条理な爆発事故以外の何物でもない」ということだ(だって特に何も問題起こってないからね)。「ファストすぎる見切り」を実行した女子は、周りから見ると「爆発物の一種」にしか見えない。すると次にあらわれる男子は「火事と喧嘩は江戸の華」的な世界観に生きるハードコア男子に限定されることになり、近々前回よりも深刻な爆発が起こることは明白だ。爆発を繰り返すほどに「ステディな関係」は遠ざかっていくので、中長期で見るとその人の人間関係のキャリアは「詰み」の傾向に入る

次に「あきらめ早すぎて自爆問題」は何であろうか。
これは該当する女子(←あなたのことですよ!)にとっては解説する必要はないだろう。

意中の男子と、悪くないファーストコンタクトを取った後に、LINEのメッセージやデートの去り際に言われた何てことない一言に「私…嫌われてる?」「私…自分が好かれてるとか勘違いしてる?」と自問自答モードに入り、別に付き合ってもいないのに「今まで本当にありがとうございました」とか「あなたに会えた奇跡を胸にこれから強く生きていきます」みたいにかっ飛んだメッセージを一方的に送りつけ、相手に「ああ、あの娘は爆発物の一種だったんだな。自爆で良かった」と胸を撫で下ろさせる結果になる。

「相手の何気ない一言と、自分の過剰妄想した解釈のあいだにある深い溝」について全く説明しないか、あるいはロッキンオンの巻頭特集二万字インタビューばりの長文粘着メールを深夜に送りつけるというディスコミニュケーションに対して「爆発物認定」が下されているという事実に、彼女たちは心配になるぐらい無自覚なのであるよ。
(同じケースでは男子でもよく見られるが)

このように、「あきらめ早すぎて自爆」女子は「ちょうどいい」ということが宿命的にニガテだ。「ちょうどいいタイミング」で「ちょうどいいテンション」のメッセージを「ちょうどいい量」で伝達するということができないせいで誤爆する。

繰り返しになるが、お手本は『孤独のグルメ』の井之頭五郎だ。
外れじゃない程度の「まあまあな選択肢」をスルッと選び、そこから「自分好みの組み合わせに調整する」というオペレーションを組み合わせる。

これを先ほどのファストガールの例に当てはめると「イケメンで大金持ちではないが、一緒にいて苦痛ではない」程度のガイをスルッと選び、そこから「自分好みの性格/ライフスタイルに調整する」というオペレーションを組み合わせる。

あわせて「明らかに許容範囲外」にまで暴走したり落ちぶれたりするまでは、何があってもある程度鷹揚にしている、つまり「見切りを早くしすぎない」という我慢も必要だと思われる。

…とここまで書いてわかったのが、「今これ以外にあり得ない一瞬のベストタイミング」というのは存在せず、どちらかというと「どんなタイミングでもそれがベストであるようにするテクニック」があるだけなのだ、という気がしてきた。つまり、

ベストタイミングを「選ぶ」のではなく、ベストタイミングに「する」というテクだ。

井之頭五郎は、どんな定食屋に入ってもそれが必然であり発見の場であるような「マインドフルネス」を体現し、凡庸な意思決定をベストチョイスに変える卓越した人物なのであるよ。

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©久住昌之、谷口ジロー

【追記1】「まあまあの人にすら出会う機会がないんだけど」とお嘆きの善男善女のアナタは、もしかしたらすでに周囲から「爆発物の一種」だと思われている可能性がある。「爆発物認証」の解除方法は、僕の業務の範囲外なのであしからず。

【追記2】「かく言うオマエは何なんだよ」という話ですが、僕は「見切り早すぎ野郎」の典型なので、日々「見切りを遅くするように我慢する」という修練を積んでいる。

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