『ごど』のつくりかた。青森県十和田の納豆×麹×乳酸発酵食レシピ

渋谷ヒカリエの発酵ツーリズム展で話題となった、青森県十和田地方のハードコア発酵食品、ごど。展覧会期中にこのごどをつくるワークショップを開催したのですが、終了後も「ワタシもごどをつくってみたい!」という声が相次いでいるので、レシピをブログにまとめておきます。

ごどのつくりかた


こんな感じのお母さんたちが受け継いできた、十和田のローカル発酵食。

材料:
納豆:180g(伝統的には手づくり納豆だけど市販のものでも可)
麹:40g
塩:5〜8g(全体量の2〜3%)


つくりかた:
A:麹を手のひらで擦り合せ、ほぐす
B:納豆に麹と塩、大豆の煮汁(なければお湯20〜30ml)を加え、よく混ぜる
C:B を容器(タッパーなど)に入れ、室温で一週間ほど発酵させる
D:豆の粒と麹の粒がドロっと溶けてきたら、冷蔵庫に入れて保管する

☆納豆に酸味とコクが出てきたら完成。一週間だと浅漬けごど、二週間ほど経つと酸味が強くなりドロっとした質感の深漬けごどになる。

☆煮汁の量でテクスチャーが変わる。煮汁が少ないとホクホクとしたおかず寄りに。煮汁が多いとドロッとした調味料寄りになる。

☆大豆を蒸煮する前に、生豆を炒って香ばしさを加える、米麹のかわりに麦麹を使うレシピも存在する。

食べかた:
・ご飯にかけて食べる
・ドレッシングのように使う(この場合お湯を多め、深漬けスタイルで)
・炒めものに使う(深漬けスタイルで)

納豆と麹と塩さえあれば簡単につくれます。
味の目安としては、納豆に麹の甘味が加わり、さらにややえげつない酸味と香りが加味された頃に「ごどタイム」がやってきます。そのまま浅漬けで食べるなりさらに数日乳酸発酵を進めてえげつない味を楽しむなり、お好みで。

『ごど』をめぐる旅のストーリー

『日本発酵紀行』の特典フリーペーパーに収録した『ごど』の旅のストーリーもブログに掲載しておきます。「ごどって何?」という人はご一読あれ。

「僕のいる十和田に、大豆を使った不思議な発酵食品があるそうなんです。納豆のような醤油のような…。地元のお母さんが細々手づくりしているみたいなんですけど、一緒に行ってみませんか?」

青森に住む博学でスマートな友人、安藤さんに青森の面白い食文化がないか聞いてみたら、実に魅力的なお誘いがあった。二つ返事で「行きます!」と十和田に飛んだら、そこには衝撃的なまでにハードコアな発酵文化があったんだよ。

失敗納豆から生まれる超絶旨味 

青森県南部の八戸から車で一時間弱、東北らしい平坦な平野となだらかな山々を抜けていくと十和田につく。洒落者、安藤さんのルノーの黄色い旧式カングーに乗ってローカルお母さんたちの仕込み現場に向かった。

いったい「ごど」とは何なのか?
ざっくり言うと、納豆に麹を混ぜ、さらに乳酸発酵させた納豆×麹×乳酸発酵の「ラーメンのトッピング全部盛り」みたいなスゴい発酵食品なんだね。見た目はドロッとした白い麹が混じった納豆、という風情。発酵が浅いうちはご飯にかけたりおかずとして食べ、発酵が進んでドロドロに溶けたものは醤(ひしお)のように調味料として使ったりもする。

「元々は、手づくりでちょっと失敗しちゃった納豆をなんとか美味しく食べようとできたものみたい。麹とあわせると甘くて美味しくなるでしょう」

とお母さんの一人が言う。

十和田はじめ青森県南部地方は、今でこそ稲作が盛んだが、かつて近代的な治水が施されるまでは、湿地が多く冷涼な気候で稲のほかに豆を主食として多く食べる文化があったそうだ。その流れで家庭では当たり前のように納豆が手づくりされていた。

でね。納豆手づくりしたことある人だったらわかるんだけど、納豆って発酵させるのに40℃以上の温度が必要で、昔は囲炉裏や炬燵の熱を利用していたんだけど熱が弱いと発酵が進まなくてべしゃっとしたイマイチな納豆もどきができてしまう。

「ごど」は、どうもそういう納豆もどきをなんとかして食べてやろう!という発想から出てきたものらしい。

それでは「ごど」の作り方を説明しよう。まず大豆を柔らかく煮て、そこに納豆菌の種(つまり納豆。ヨーグルトをつくる時に既製のヨーグルトを種として入れるのと同じ原理)を入れて 1〜2日保温し納豆にする。

そしてできた納豆に麹と塩(5%以下の少量)、人によっては飯米を混ぜてさらに数日発酵させる。すると麹の旨味とともに、乳酸発酵による酸味が加わり、ネバネバ、旨い、甘い、酸っぱいという複雑極まりない風味が生まれる。
旨味が強いうちはおかずとして扱い、酸味が強くなってくると調味料として扱う。

お母さんのスタイルウォーズ

「ごど」は発酵を体系的に学んだ者からするとびっくり仰天のレシピだ。

酒屋や味噌屋が仕込みの時期に納豆を食べるのを禁止するように、麹と納豆は相性が悪いとされている。コウジカビよりも繁殖力の高い納豆菌は、麹の発酵を台無しにしてしまう。
ところが「ごど」では、納豆に確信犯的に麹を混ぜ、そこにさらに乳酸発酵を呼び込むという、発酵学でいうところの「コンタミネーション(雑菌汚染)」を意図的にやってしまっている。十和田のお母さんたちによるハードコア・パンクなのであるよ。

しかもめちゃくちゃ美味いんだコレが。納豆のかぐわしい風味と麹の甘味とコク、トドメに乳酸菌の酸味が加わり、口のなかに和食特有の発酵旨味の嵐が吹き荒れる衝撃の味わいなんだよ。

しかも。「ごど」にはスタイルがある。僕が取材した二人のお母さんはそれぞれ異なった美学を持っていた。
一人は発酵初期の麹の甘味を押し出した「フレッシュごど」が美味しいと言い、もう一人は発酵が進んで酸味が濃厚になった「エイジングごど」が美味しいと言う。

つくるお母さんによって正解が違う、ヒップホップで言うところの「スタイルウォーズ」があるんだね。

十和田のお母さんたちによって受け継がれてきた超ローカル発酵食「ごど」には、不思議な現代性がある。原料は大豆、米(麹)、塩なので日本全国どこでも容易に調達できる。難しい技術や高価な設備もいらない。そして和食の発酵文化のいいとこ取り的なリッチな旨味がある。その衝撃の美味しさに僕は思わず、 「お母さん、このレシピ僕にも教えて!」 と前のめりになってしまった。

そしてこの原稿を書いているさなかに僕は自分の手で「ごど」の再現に成功した。この最強すぎるレシピは、未来の発酵ラバーたちに受け継がれるべきマスターピースなのだ。

『ごど』との出会いを導いてくれた安藤さん、『ごど』を受け継ぐ十和田大好き♥矢部聖子さん、どうもありがとうございました。『ごど』が全国の発酵ラバーたちに広まっていくといいですね。

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