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「面白いヤツ」のニーズが高まると、社員の概念が変わる【後半】

☆☆初めての方はまず前半をお読み下さい☆☆

WEBメディアが出版や放送業界にかわるビジネスになりそうだ、という流れになってくると「面白いヤツ」がビジネスリソースとして認識されるというのが前半のお話。
後半は、今度は「お抱えされる側の面白いヤツ」からの視点から考察してみたい。

WEB上に「プライベートサロン」が登場する

組織やプラットフォームが面白いヤツを囲い込んでいくフェーズは、一方でクリエイター側の自由を制限することになる。なので、今度は面白いヤツ自身が「プライベートサロン」をWEB上に立ててファンと直接結びつくという潮流も起こる。

少人数でアットホームな「会員制サロン」をつくり、そこで「横のつながり」「親密なファン関係」を形成し、囲い込みによる自身のリソースの枯渇を防ごうとする。

これもまた実は新しい話ではなくて、明治時代のメディア勃興期に起きたことだ。
「新聞社」や「出版社」というお抱え元のプラットフォームに対して、お抱えされる文学者自身が「文壇」というサロンを立てたことと同じ構造だと思うんだよね。

つまりだな。
今WEB業界で起こっているのは出版ルネッサンスの模倣なのだな。と考えてみると、これかは始まるのは、「誰が菊池寛のフラッグを取るか」という戦いなのだよ。

次世代の菊池寛は誰だ問題

明治以降のメディア勃興のキーパーソンは、菊池寛だとヒラクは思うんですね。
自分も文学者でありながら、文藝春秋つくって、芥川賞と直木賞つくって、プラットフォームとサロンを統合した。文学者だし、編集者だし、プロデューサーだし、適度に高尚で、適度に俗っぽい(麻雀大好きだし)。そして何より「政治力」があった。

これからはじまるWEBメディア業界の春秋戦国時代(←ダジャレじゃないからね、一応)の肝は、誰が「菊池寛フラッグ」を取れるのか、ここに尽きる。圧倒的なコンテンツと面白いヤツを囲い込むプラットフォームと、人間関係や才能が生まれる源泉となるサロンの両方をいいとこどりするヤツがこのフラッグを掴み、エポックメイキングな存在となる。

でね。
メディアにおけるプラットフォームとサロンの統合ってのは、具体的には「インパクトのあるコンテンツ提供とそれをつくるクリエイターの育成システム」の両立をベースに、そのうえで「影響力のあるクリエイターを囲い込む」という政治力と資金力の装備のことだと思うのよね。
前者の「インパクトのあるコンテンツ提供とそれをつくるクリエイターの育成システムの両立」ってのは、例えばcakesとnoteを両輪で回して達成される場所なんだけど、難しいのは後者の「クリエイターを囲い込む政治力&資金力」で、これは実はIT業界の「事業に対する投資コストが安い」というメリットに矛盾する。

だから、WEBメディアで「菊池寛フラッグ」を取るためには、あえて一度IT業界の強みを捨てて、「昭和のおっさん的体質」になる覚悟がいる。つまり、人に対してお金をバラまき、生産性に関わらず抱え込み、料亭で接待する…という営業戦略。スマートにやりたいうちは「菊池寛フラッグ」は取れない。

新興マーケットが飽和状態に近づいた時にライバルより一歩先んじる者は、「業界のメリットをあえて捨てる」という戦法を取る。

他の例で考えてみると、例えばラーメン業界。
在庫の余りがなくて、回転率が良くて、原価が安くて、バイトでも調理できて…という飲食業界のなかでは圧倒的に合理的なビジネスモデルは、当然すぐに過当競争になる。そのなかで人気になる店は、ダシにこだわったり、接客にこだわったりすることで他と差をつける。それはつまり、原価を上げたり、バイトの教育に投資したりと、「業界のメリット」に反する行為を取るということだ。

それと同じで、最後の最後で菊池寛フラッグを取る=エポックメイキングになるヤツは、IT業界のうまみを捨てて、前時代的ビジネスモデルをあえて取り入れる(はず)。ろくにオフィスに来ない、勤怠管理のできない、生産管理もできない「面白いヤツ」に投資して投資して投資しまくり、借金の限度額が来たら取引銀行やファンドの頭取を赤坂の高級料亭に呼んで…という事を進んで引き受けられる「昔のおじさん」が新興メディアビジネスを制するとヒラクは見た。

モノにも人にも投資せず、システムに仕事をさせるIT特有の合理性は、これからは通用しないかもしれない。最後に差をつけるのは、非常にアナクロな結論になるが「人」になる。その時の「人」は、機械や人工知能に代替できない、定量化不能なクリエイティビティに満ちた「面白いヤツ」なのかもしれない。

「あのー、私、自分のこと面白いと思えないんですけど、どうしたらいいですか?」

なるほど。それでは後ほど僕の秘密サロンに招待しよう。
会費はちょっと高いかもしれないけど、損はさせませんぜ。

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菊池寛フラッグを取るヤツの面構えはこんな感じ。

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