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「発酵」が文化のあり方を左右する!?

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▶「発酵」が文化のあり方を左右する!?ソトコト2015年6月号掲載 

自分のユニークさは、他者と比較してはじめてわかるもの。であるならば、よく言われる「日本の発酵文化のユニークさ」は、他の国と比較することで明らかになるのではなかろうか。

今回は「麹(こうじ)」をテーマに、日本文化のアイデンティティ形成を考察してみるぜ。よろしく!

そもそも麹ってなんですか?

味噌や醤油、お酒をつくるもととなる麹。お米や麦に「ニホンコウジカビ」というカビの一種を生やしたものです。

ふだん僕たちがイメージするカビと違って、このカビは毒を出さず、お米や麦のタンパク質やデンプンをチョキチョキ分解し、人間にとって美味しくて有益なアミノ酸や糖分を生成してくれるラブリーすぎる菌なのです。
(詳しくはアニメ「こうじのうた」を検索)
さて。この麹のルーツはどこかというと、食文化のパイオニア、中国。

「えっ?じゃあ日本独自の文化なんて、ウソじゃないスか!」

お若いの、そう生き急ぐでない。確かに「麹の発明」は中国だが、「麹のイノベーション」は日本なのじゃ。

ブロックで醸すか、バラして醸すか

中国の麹は「餅麹」といって、麦や雑穀を水でこねたお団子に「クモノスカビ」というカビをつけて作ります。麦主体であり、ブロック状で高温発酵(50℃以上)させるのが特長。
一方日本の麹は「ばら麹」といって、お米主体。米粒一粒一粒をほぐして菌の家にし、比較的低温で発酵(30℃〜40℃)させるのが特長。この違いは漢字の表記にも及びます。大陸で平地が多く、水の少ない中国では麦を固めた「麹」となり、島で起伏が激しく水が豊富にある日本では米にカビの花を咲かせた「糀」となります。

発酵の違いが、文化の違いを生む

要は気候風土が違うから「原料」と「菌」が違うよねって話。でもこれが「文化のアイデンティティ」を決定づけてしまうのさ。

ともに麹を原料とする、中国の紹興酒と日本酒を比べてみましょう。
紹興酒は最低5年〜何十年も熟成させる「重厚で深みのある酸味のきいた味」。対して日本酒は数ヶ月〜1年の熟成で飲む「軽やかでフレッシュな甘い味」。

日本列島の気候が生み出す極端な温度変化と湿気の多さが長期熟成に適していないため、このような違いが生まれました。しかしこの事が、主食から短期間で作れる「運用しやすい麹」というイノベーションを起こし、酒にとどまらず調味料や保存食などあらゆる分野に広がっていきました。

おお、これは「漢字」というどっしりとした文字を母体に「かな文字」という軽やかな文字を生み出し、庶民にまで普及させた文字文化のイノベーションのようではないか。

さてここで考察。日本人は最初から「軽やかでフレッシュな味」を意図したわけではなく、中国のやり方が通用しないなか試行錯誤して、自分たちの得意な「米」と、田んぼに住みついていた「コウジカビ」を使った「ばら麹」を開発した結果、「フレッシュで軽やかな味」だった。それを何百年と続けているうちに「フレッシュで軽やかなのが好き」という美意識になったのではないか。

「自分らしさ」とは、自分の意思が選択したわけではなく、自分を取り巻いている環境がつくりだしたもの。
この文化人類学的発想でいえば、日本列島の「四季」と「菌」こそが、僕たちの美意識の生みの親なのだ。

 


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