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食に関わるということは、世界に関わるということ。

大阪発のカルチャーマガジン『IN/SECTS』最新号の特集「新しいもの、未知なるもの」で寄稿したコラムを僕のブログに転載します。最近の食の潮流について僕なりに考えてみました。

この『IN/SECTS』、つくっている人の手触りがザラザラと伝わってくるエネルギーのある雑誌です。関西圏以外の人で読みたい人はネットショップからどうぞ


 

食に関わるということは、世界に関わること。

デザイナーとしてのキャリアを歩んできた自分が、発酵の道を志したのもそんな意識があったのかもしれません。
美味しいものが好き、生産の現場が好きだという興味を超えて、食に関わることで僕たちを取りまく社会の課題を捉えたい、ものづくりや自然の本質を深く認識したい。これが僕たちの世代(20代〜30代)の新しい「食との向き合いかた」です。

「発酵デザイナー」という変わった肩書の僕の仕事は発酵や微生物のメカニズムや価値をデザイン技術を使って可視化すること。料理家のようにレシピを開発するわけではなく、微生物との付き合い方を誰にでもわかりやすい方法にして伝えることです。例えばお味噌づくりのワークショップをする時に、料理家だったら「いかに美味しい味噌を仕込むか」が大事ですが、僕にとっては「味噌をつくることを入り口に、微生物の働きを理解してもらう」ことがゴールになります。
発酵食品を食べたりつくったりすることは、目に見えない自然の世界を旅するための「ひみつのドア」です。それを食全体に拡げて表現すれば、食べること、料理することは自分と世界の関わりを知るための入り口なのです。

自分と世界の関わりを知りたい。この感覚って何かに似ていませんか?
そう。一昔前の「アートやデザインに興味がある」「自分を表現したい」という関心が、食に向かって注がれているんですね。僕がグラフィックや音楽、あるいは五感を使ったワークショップを通して発酵食のことを伝えている理由の一つに「アタマではなく感性からミクロの世界の面白さに気づいてほしい」という思いがあります。

まるでアーティストを志すかのように食の世界を志す感受性の持ち主たちは、食べることを通して新しい社会の関わり方のビジョンを作り出すはずです。
例えば。乱獲される漁業資源を救うための「食べる」。伝統的な和食を現代のライフスタイルに仕立て直して「食べる」。新たな世代が始めているこのような「食のカタチ」には、食べる喜びにアートのもたらす美意識、社会の課題解決のための事業センスや未知の知識への学びが組み合わされ、社会を変えるアクティビティとしての機能が備わっています。僕にとっての「発酵」もそう。微生物の見えない視点から人の意識を変え、世界の見方を変え、文化や経済のあり方を変える「デザインの起点」なのです。

小倉ヒラク:
発酵デザイナー。「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、山梨県の山の上に発酵ラボをつくり、日々菌を育てながら微生物の世界を探求している。新著に『発酵文化人類学』(木楽舎)。


編集部の小島さん、ブログ転載こころよく了承してくださってありがとうございました。
次号楽しみにしてまーす!

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