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絵画的思想力。フレデリック・バックのアニメがいかにスゴいか考える。

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こんにちは。ヒラクです。今日も暑いですね〜。

さて。恥ずかしながら、僕いまさらながらフレデリック・バックのアニメを見たんですよ。
昨年亡くなってしまった、カナダのアニメ作家。「木を植えた男」が有名ですが、他のアニメもスゴい。久々にアニメを見て魂が揺さぶられました。

ということで、フレデリック・バックの何をスゴいと思ったかノートしておくとしよう。

プロダクション制ではつくれない「個でつくるアニメ」の真骨頂。

「大いなる河の流れ」。フレデリック・バックの到達した「ひとりアニメ」の究極系。

えーとですね。僕たちがふだん見慣れている日本とかハリウッドのアニメのほぼ全てが「プロダクション制」でつくられています。
プロダクション制とはなにかというと、要は「たくさんの人が分業でつくる」ということです。ディズニーの映画もジブリの映画も、テレビでやってるアニメ番組もぜんぶ「プロダクション制」です。監督がいて、脚本を書く人がいて、作画のチーフがいて、アニメーターがいて…と分業するうちに、スケジュール管理をして予算を組まなければいけないのでプロデューサーが必要で…というふうに、アニメ表現をつくるための「事業」になっているんですね。

さて。
翻ってフレデリック・バック御大はどうか。

プロダクション制、全無視です。ぜんぶひとりでつくっています。企画もシナリオも絵を描いてモンタージュするのもぜんぶ一人(さすがに音楽は他の人がやっているけど)。『木を植えた男』では、パステル画を20,000枚ひとりで描いています。
これはすごいことなんだよ。ぜんぜん比較にならないレベルですが、ヒラクも「てまえみそのうた」のアニメを全部ひとりでつくりました。そのとき描いた原画が全部で800枚強ぐらい(しかも着色なしの線画のみ)。それでも手が腱鞘炎のようになって大変でした。

それでだ。ぜんぶひとりでつくった場合のメリットはなにかという話だが。
絵画を動かすことができる」これに尽きる。

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アニメの絵と絵画は違うジャンルなんです。アニメの場合は、「線」と「面」が主役になる。対して、絵画は(作品によるけど)「タッチ」や「質感」が主役になる。アニメの絵で考えてみましょう。キャラクターってつまり「線」だし、世界の奥行きをつけるのは「面」だ。では次に、ルノワールの絵で考えれば、ほら、線でも面でもなく、画家の「筆の運び」自体が絵の本質になっていることがわかるでしょう。

線と面は、他の人がマネしやすい。なんだけど、「タッチ」はマネすることがほぼ不可能なぐらい「属人化」している。
プロダクション制でそこに肉薄したのがジブリの高畑監督なんだけど、背景まではできてもキャラまで貫徹することは難しかった。

でも、フレデリック・バックだったらできる。だってひとりで全部描いてるんだもん。
(ロシアのノルシュテインとか、イタリアのトッカフォンドとかもそうだ)

分業しないことで、絶対的に唯一無二の世界観がすこにあらわれてくる。

「絵画的思想力」としか定義しようがない。超骨太の思想的背景。

そして。フレデリック・バックのアニメは絵の表現力ももちろんスゴいんだけど、アニメの内容自体も素晴らしい。これまた独自すぎて、今のプロダクション制「ストーリーアニメ」から一万光年くらい遥か彼方へ行ってしまっている。あえて特長を抜き出して見るならば、

・特定の主役の個人がいない。「時代」や「自然そのもの」が主人公になる。
・常にアングルが動き続けるアニメ表現と、ストーリーの展開が分かちがたく結合されている。
・「近代のつくりだした文明は誤りだ。だけど人間には可能性が残っている」という強い信念が表現を支えている。

あたりでしょうか。
感情移入でいる主人公がいない。そして、言葉が少ない。「木を植える男」も寡黙な作品ですけど、他のはもっとセリフが少なくて、まったくないアニメもある。しかし、単なるイメージ映像ではない。強烈に伝わりまくってくる、心の琴線を激しくビートする情熱がある。
(うがった見方かもしれないけど、スポンサーのついているスポンサー制でこの思想性は表現できないかもしれない。配給側とかプロデューサー側から「いや〜、すいません。ちょっとこの表現、スポンサーに悪印象与えちゃうんで…カットお願いしますッ!」みたいな。しかしフレデリック・バックに何かしらの注文を出せるスポンサーやクライアントはいないのである。ひとりだから。)

そしてそれは、文学的に表現されているのではない。
動く絵画として表現されている。

この世界観。「絵画的思想力」と名付けるしかない、本当に稀有な「ひとりの人間の力」によって生み出されている。
大きなお金とたくさんの人、あるいは機械設備で武装した「システム」を無効にする、フレデリック・バックの生き様と表現は本当に素晴らしい!

(ちなみにDVD作品集は、ジブリから出ています。うーん、納得。)

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