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納豆をかき混ぜるべきたった一つの理由。旨味の秘密を科学してみる。

最近、ワラで納豆をつくってみたんだけどさ。
納豆って、改めて面白いもんですなあ。

今は工場で大量生産している納豆ですが、昔はワラを折ってつくった藁苞に包んで作っていました。見た目も風流ですが、この方法にはちゃんと科学的な理屈があるんですね。

ワラで納豆ができる理由

まず、ワラの繊維を拡大して見ると、なかにたくさんの空洞がある。ここに納豆菌がいっぱい住んでいるんだね。トルコのカッパドキアにある洞窟をくりぬいた住居みたいなもんです(←と言ってもわかる人にしかわからないか)。

で、納屋からワラを持ってきたら蒸煮します。
発酵や微生物に詳しい人だったら「えっ、そんなことしたら菌が熱死するじゃん!」と思うでしょ。ところがね、納豆菌は100℃の沸騰したお湯のなかでも死ななのさ(厳密に言うと、ワラに潜んでいる休眠状態の場合は。栄養をゲットして眠りから覚めると70℃くらいで死ぬ)。

なので、ワラを蒸煮するという行為の意味するところは「納豆菌以外の雑菌を殺す」ということ。こうやって納豆菌オンリーになったワラを束ねてくるんと折った藁苞に、煮大豆を入れる。40℃〜50℃くらいに保温すると、納豆菌が目覚めて大豆のタンパク質やでんぷんを分解して納豆をつくる。

外から納豆のタネを入れなくても、ワラと大豆だけでできちゃうのさ。不思議だよねー。

納豆の旨味の秘密

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さて、こんな感じでネバネバと発酵した納豆。前にブログで書いた通りヒラクの朝の超定番。

・免弱男子(めんよわだんし)よ、朝の発酵三種の神器を喰らえッ…!

ワラからつくった納豆は、納豆特有のあのなんとも言えない香りと、干草の香ばしい香りが合体し、バイオハザードみたいなニオイになると思いきや、意外にほっこりしています。
そして旨味が異常に濃厚。市販の納豆とぜんぜん違うプロダクトなんですね。

そんでさ。
美食家の魯山人が「納豆はしつこくかき混ぜて食べると美味い!」と言っていますが、これにも科学的な理由があった。納豆の組成を調べていたら、ご飯が止まらなくなるあの旨みは「グルタミン酸」というアミノ酸の役割が大きい(昆布とかお味噌とかにも入っている)。
でね、納豆のあのネバネバってのは、このグルタミン酸が鎖のように何重にも結合した「ポリγ(ガンマ)‐グルタミン酸」という高分子物質がメインで構成されている。

さて、ここまで読んだところで賢明なあなたならお気づきであろうよ。
納豆をかき混ぜるということは、お箸を高速回転させる力でこのポリγ-グルタミン酸の鎖をちぎって、そこから旨味成分=グルタミン酸のみを分離させるオペレーションなのさ。
だから納豆をかき混ぜるということは、実は「混ぜる」ことではなく「ちぎって分離する」ということなんだね。魯山人のようにしつこくかき混ぜると、旨味を最大限までゲットできるわけだ。

ちなみにオススメのかき混ぜ方ですが、まずタレを入れない状態で30秒ほどかき混ぜます。するとフワッとしたネバネバが泡のように出てきます。そしたらタレをかけて30秒〜1分くらいさらにかき混ぜると、ネバネバの海に大豆が沈んでいる、という風情になりますので、そいつをご飯にかけて食べるとグルタミン酸の旨味と独特の発酵臭とネバネバの食感の3トップがバルセロナのMSNかレアルマドリーのBBCかという勢いで迫ってきます。

夜はこいつをマグロのぶつ切りとあわせてお豆腐にかけて食べると日本酒のアテになります。

納豆って、ほんと素晴らしい食べ物だよなあ(しみじみ)。

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