今年7月に丸善京都本店での安田登さんとの対談で着想を得て、先日の広尾の東江寺での「寺子屋」でなんとなく体系化してみた「発酵古代漢字」の世界。
古代アジアの漢字・象形文字から発酵文化に関係するものをピックアップし、そこから古代の人々の世界観を掘り下げるというニッチ極まる研究ですがたくさんの人から「面白いです!」と感想をもらいました(どうもありがとう!)。

【酉】の字から始まり、中国の殷・周の古代文化、日本の古事記などの神話に接続されるこの不思議な世界観、さわりのさわりだけなんとなくブログにまとめて、もっと掘り下げたら何らかの形式でまとめたいと思います。

発酵古代漢字を紐解いてみる

ではイベントで紐解いて文字をいくつか紹介します。

【酉】古代東アジアの発酵を象徴する「醸」の文字のルーツ。土中に埋める「酒壺」を意味し、同時に土に死者を葬る「棺」、さらに彼岸から故郷に戻ってくる死者の魂の象徴である「鳥」を意味している。古代世界において、発酵させることは「生命の蘇り」を意味しているのではないか?

【醸】前述の「酉」の酒壺に穀物を詰めて酒や調味料などを発酵させる。右側は①手に穀物の穂を持ってお祓いする意 ②死者の白装束の袂に神具と呪具を入れて胸が膨らんだ様から「発酵して酵母が湧き上がる」の意の2つの説があります(もしかしたらもっとあるかも)。どちらにせよ発酵が神事と深く関わっていたことを意味する漢字。

【風】風を受ける帆をあらわす「凡」のなかに入るのは、もとは虫ではなく鳥でした。異界から風に乗ってやってくる鳥たちは、故郷を懐かしむ死者たちの象徴。やがて鳥は爬虫類の要素が加わり、龍となる。空を飛ぶ爬虫類のイメージが「帆」のなかの「虫」。

【申】もとはカミナリの象形。これが転じて「神」という文字になっていきます。カミナリは「神鳴り」。別名は「稲妻」。カミナリが田に落ちると、窒素固定によって稲の豊作がもたらされます。そして米から酒を醸し、神に奉納する。田を介して人と神が対話する。僕の徳利コレクションのなかに、カミナリのモチーフが入ったたものがあります。

【田】自然のなかにグリッド(直線)を引いて秩序あるエリアをつくる。曲線で流れる川を水蛇と見立て、その力を理知的な直線の力で抑えて水の持つ破壊の力を防ぎ、恵みの力を引き寄せるためのランドスケープの設計技術。それを都市計画に応用したのが京都。水蛇は鴨川。神社で蛇の頭を抑える。

【龍】「龍」のつく日本酒の銘柄が多いのは、神から特別な力を与えられた蛇が龍であるように、発酵の力によって特別な力を与えられた水が酒であるからなのではないか…と僕は考えています。ちなみに龍は日本酒の仕込みに使う清水を生み出す森の守り神ともされてきました。

味噌の「噌」の文字の謎

【噌】「味噌」以外に使われることがない不思議な漢字で「にぎやかにする」ことを意味します。つまり味噌とは「味をにぎやかにするもの」。ただ語源まで辿ると実は政治的な意味を持つ文字でした。右側は「鍋にかけた蒸し器から水蒸気が上がっている」ことを意味します。そして左は蒸した穀物を食べる口…ではなくなんと「議論する」です。

これを字義通り取ると「キッチンで食べ物蒸しているあいだに人が集まってあれこれ議論するさま」ということになります。謎すぎる文脈ですが、実はこれも古代の殷まで遡るとヒントが見えてきます。古代殷では、政治家は料理家を兼ねていました。

【宰】政治を司るこの文字は「家のなかで包丁を振るうさま」を意味します。殷の伝説的宰相である伊尹(いいん)は優れた料理家であったようです。「包丁で食べ物を切り分ける=適切に資源を分配する=政治をとりおこなう」という発想であったようです。なお、包丁という単語のルーツは庖丁(ほうてい)という宰相の名前から。

「宰」の文字を踏まえると「噌」の文字の語源が見えてきます。古代アジアにおいて、政治はキッチンで行わていた、ということなのかもしれません。政治をすることと料理をすることはイコールだったのですから。

現在中国では「噌」の文字はほとんど使われていないようです。なぜその文字が日本の「味噌」に残っているのかはまだ謎。これから解き明かしたい…!

万物は発酵から生まれた…?

【壹】発酵古代漢字を調べていて衝撃的だったのが、数字の「一(壱)」の古いカタチである「壹」が「発酵して気が充実している壺」を意味していることを知った時でした。

老子の有名な「道は一を生じ…」というのは「道(タオ)は発酵である」ということ…なんですか?マジで!?
「壹」の文字を眺めていると「味噌仕込んだりどぶろく仕込んだりしながらほっこりしている老子」のイメージが湧き上がってきます。酒母がプクプクしているのを見ながら「道は一を生じ、一は二を生じ、三は万物を生じる…」とつぶやき「ヤバい、めっちゃいいこと考えついちゃった…」とご満悦の老子。

「道は一を生じ…」の一説に続く「万物は陰を負いて陽を抱き、沖気を以て和を為す」も大変に発酵的です。陰は「腐敗」で陽は「発酵」、その2つの弁証法的止揚によって「めちゃヤバい食べ物」が生まれる、という風に発酵デザイナーは読み解きます。

まだまだいっぱい紹介したい漢字があるのですが、その続きはまたの機会に。

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