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漬物はロマンだ!菌と人との遠距離恋愛の風情を科学してみる

vol15

『発酵文化人類学』の出版記念企画として、雑誌ソトコトの連載バックナンバーを無料公開!  なぜそんなことをするかというと、書籍版は過去の連載記事を全部無視した「完全書きおろしREMIX」だからなのだ!

▶漬物はロマンだ!菌と人との遠距離恋愛の風情を科学してみる | ソトコト2016年6月号掲載 

携帯のなかったその昔、デートの待ち合わせってなかなかドキドキだったと思うんですよね。「◯月☓日、桜の樹の下で待つ」という手紙を下駄箱に入れて、さてあの人は来るのだろうか…

そんな平安貴族のような風情を、僕は漬物に感じます。

漬物=人間と菌の共同作業

ぬか漬けや西京漬け、味噌漬け。日本は漬物文化の宝庫です
で、漬物の定義ってのは何よ?ってな話なんですが「発酵した汁やペースト、あるいは塩などに野菜や魚介などを長期間漬け込んで熟成させたもの」です。その中でも全国に広く分布しているスタンダードが「野菜を乳酸菌によって発酵させた漬物」。漬物と聞いてイメージするのは、菜っ葉なキュウリなどが塩っぽくて酸っぱい感じにしんなり発酵したものですよね。

この漬物の原理って、科学的に見てみても大変面白いものなのだな。野菜=植物は、細胞壁が細胞のなかの栄養成分(糖質やタンパク質等)をガードしているので、ほっておいても乳酸菌等の発酵菌は細胞のなかに入っていけない=発酵しない。で、漬物のレシピを見てみると、最初に塩を揉んだり、包丁でザクザク切ったり、重しを乗せて潰したりしています。これは「細胞壁を壊して、発酵菌がなかに入れるようにする工夫」なんですね。
人間がこうやって手助けすることによって、漬物が発酵できるようになるわけです。

漬物=待つことの美学

下ごしらえが終わったら、後は発酵菌の働きに委ねます。

うまく熟成が進むように願いつつ、待つ。早いものなら数日で結果が出るし、長ければ何ヶ月も、何年も待って幸せが訪れることがある。もちろん、微妙なコンディションの変化によってうまく発酵しなかったり腐ってしまったりすることもある。事前に万全は尽くすが、そこから先はコントロールできない。願いが成就(=美味しいものが食べられる)するかどうかは、神のみぞ知る。

限りなくスローな味わいの漬物は、まだるっこしいけれども、いちど発酵したならなかなか腐らず、長く楽しめる。待ったぶんだけ、複雑なテイストで飽きない。

…ほら、なんか古風な純愛のようにロマンチックでしょ?

漬物が美味しい&長持ちする理由

さてそんな漬物が発達したのは、保存食としての活用が第一(100年前は携帯どころか冷蔵庫すらなかったし)。

漬物が長く保存できる理由は大きくわけで2つ。
一つは、塩による雑菌のブロックです。古代から塩は「場を清めるもの」として重用されてきましたが、これはスピリチュアルなだけでなく、科学的に見てもそのとおり。で、日本の発酵菌には塩に強いものが多く、腐敗を防ぎ発酵を促すという二重の効用があるわけです。

もう一つは、pH値のコントロール。乳酸菌や酢酸菌の発酵作用によって、食材のpH値が酸性に傾きます。pH値が中性から酸性に傾くと、これまた雑菌が入ってこれなくなるんですね。前者は塩漬の原理、後者は酢漬けの原理。で、ぬか漬なんかだとその両方を兼ね備えているわけです。

塩味があって、発酵菌のつくり出す旨味もあって…となると、これは当然日本人の主食であるコメによく合うわけですね。
昔の日本人は、恋文を出したらお家に帰って、漬物をポリポリかじりながらご飯を食べていたに違いない。で、お茶をすすって口の中の塩味を洗い流しながら「あの人は、桜の樹の下にあらわれるのだろうか…」と想いを馳せていたんでしょうねえ。

待つことの美学。なかなか粋なもんですなあ。

【追伸】日本の数ある漬物文化のなかには、滋賀の熟れ寿司のように魚介を何年も漬け込んだものや、沖縄の豆腐ようのように加工品にユニークな赤カビをつけて発酵させたものなど、ビックリ仰天な珍味がいっぱいあります。死ぬまでに全部味わうことができるのかしら?


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