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木桶の伝統が未来の多様性を生む。小豆島の醤油文化

鳥取の発酵ツーリズム:
醤油(香川県小豆島)| 小豆島の木桶仕込み

木桶だらけ!の醤油の島


小豆島の醤油文化の顔のひとつ、マルキン醤油の果てしなく続く木桶の景色。圧巻…!

香川県高松沖、瀬戸内海に位置する小豆島は、島の主産業の筆頭が醤油醸造という「醤の郷(ひしおのさと)」として知られている。「知られている」というと、行政やメディアが無理やり話題づくりして「そういうのもないことはない」ぐらいのレベルかと思ってしまうが、実際に行ってみると、予想の斜め上を行く「醤の郷」っぷりで衝撃を受ける。

一つの島のなかに、なんと22もの醤油蔵がある。瀬戸内海では淡路島に次ぐ大きな島とはいえ、驚異的な密集っぷりだ。明治の最盛期にはなんと400以上の醤油蔵があったらしく、醤油とともに歩んできた島なんだね。

なぜこんなにも醤油醸造が盛んになったかというとだな。
中世から小豆島は製塩業が盛んだった。ところが江戸時代に塩田技術が確立すると他の土地でも次々とライバルが現れてレッドオーシャンに。そこで大豆や麦などを本土から運んで塩とまぜて醤油に加工し、付加価値の高いビジネスモデルをつくりあげた。

接する土地が多いので、原料を運び込むのも容易、そして高い値段で買ってくれる都市部(岡山や姫路、神戸など)にも近いという地の利を活かした作戦勝ちだ。江戸時代から明治にかけて関西一円に醤油を卸していたのだろう。
ちなみに山の上に登って島を一望してみると、入江が港になっている。水害の影響を受けにくい地形も加工食品貿易のモデルに向いていたんだね。

さて。
醤油とはそもそも何だろうか?
大豆と麦に麹菌(コウジカビ)をつけて麹とし、それを塩水に漬けて発酵させてもろみとし、それを搾って使う液体調味料。個体調味料の味噌、液体調味料の醤油が日本の発酵調味料の2トップだ(発酵の原理もかなり似ている)。

味噌と比べると、塩分が若干高く甘味が弱く旨味が強い。刺し身から煮物まで、和食になら何でも使える汎用性があり出汁やみりんや酢など、他の調味料との相性も良い。

九州では糖類などを加えた甘い醤油、東海では小麦主体でつくる白醤油などいくつかのバリエーションがあるが、全国各地で多く使われるのが、大豆と小麦を混ぜた醤油麹を黒褐色になるまで熟成させてつくる『濃口(こいくち)醤油』だ。

小豆島でつくられる醤油の多くもこの濃口醤油。そして小豆島の醤油醸造で特徴的なのが醤油を杉でできた『木桶』で仕込む文化だ。メンテナンスに手間がかかり、コンディションによって味が変わりやすい木桶は現代では金属や強化プラスチック製のタンクに取って代わられつつある。のだけど、小豆島は島をあげて木桶仕込みの伝統を継承しようとしているんだね。


ヤマロク醤油の木桶の表面。100年以上使い込まれて表面も菌でビッシリ!

衰退しつつある木桶の文化に新たな流れをもたらしている代表格がヤマロク醤油。何トンもの酒や醤油を仕込める大型の木桶を作れるメーカーが絶滅しつつある中で、醤油蔵自らが木桶をつくるために技術を学び、その試みに共感する県内外の醸造蔵がヤマロク醤油に桶づくりの研修に行くという「木桶づくりのトレーニングセンター」になりつつある。

普通の人よりもだいぶ木桶を見慣れた僕ですら、小豆島の木桶の数と使い込まれた貫禄には圧倒される。間違いなく日本で最も大量の木桶が集まっている集積地がこの小豆島だ。

前述のヤマロク醤油では、醤油を木桶に仕込んで製品として出荷するまでに三年という長い熟成期間を経る。木桶に棲み着いた野生の微生物を使い、じっくりと発酵させた醤油は香りが特徴的だ。奥深いのにフルーティ、官能的なフレーバーが生まれるんだね。

そしてもちろん蔵ごと、桶ごとにコンディションが違うので生まれる風味も個性が生まれる。手間がかかる、コントロールしにくい部分が多いという要素を、デメリットではなく多様性を生み出すメリットと捉える。

醤油文化の未来、ローカル発酵文化の未来が、ここ小豆島から生まれている。

どうやってつくる/食べる?

▶How to 仕込み
A:蒸煮した大豆、炒った小麦を混ぜてコウジカビをつけ醤油麹にする
B:醤油麹と塩水を混ぜて桶に仕込み、半年〜3年発酵・熟成させる
C:熟成したもろみを搾り、熱加工(火入れ)して発酵作用を止め出荷する

☆菌の元気な暑い時期に発酵を促し、菌の動きが鈍る寒い時期に味を落ち着かせる、という季節のサイクルを利用して味を整えていく
☆醤油麹は味噌や酒の麹と違って旨味を強く引き出したもの。素人が見ると同じ麹とは思えない。
☆木桶や蔵の室内は基本的に洗わない。微生物の生態系が変わってしまうリスクを避ける。

▶食べかた
・刺し身醤油として
・煮物、焼き物の味付けに

▶食べられている地域
全国津々浦々
(沖縄周辺の諸島部では伝統的には醤油は使われなかった)

▶微生物の種類
醤油醸造に特化した麹菌、耐塩性の乳酸菌、酵母など

旅のメモ


高松や岡山、姫路や神戸など都市部に接する地の利を活かして加工食品産業が発展した

小豆島を取材した一番の理由は、発酵友達で醤油ソムリエのケリーちゃんこと黒島慶子さんの存在。醤油蔵がひしめくエリアで生まれ育ち、親も醤油蔵に勤務。幼い頃から醤油とともに育ってきたケリーちゃんが醤油文化の素晴らしさを伝える生業を選んだのはごく自然なことだった。彼女の精力的な活動によって、手間をかけてつくる自家醸造の醤油の魅力が若い世代にも改めて認知されている。情熱もセンスも知識もある、醤油界の伝道師なんだね。

そんなケリーちゃんと小豆島の醤油蔵を訪ねると、どこに行っても「慶子ちゃん、元気か?」と声をかけられ、世間話が始まる。ケリーちゃんにとって小豆島の醸造家たちみんなが親戚のようなもの。こういう「土地そのものと結びついた存在」が文化の守護神になるんだね。

醤油とともに歩んできた小豆島の歴史。その歴史は抽象的に受け継がれるのではなく、生身の人間にパスされる。伝統は資料のなかにではなく、人の身体のなかに宿るのだな。

ケリーちゃん、小豆島は最高だったよ!また遊びに行きます〜。


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