『発酵文化人類学』の出版記念企画として、雑誌ソトコトの連載バックナンバーを無料公開!  なぜそんなことをするかというと、書籍版は過去の連載記事を全部無視した「完全書きおろしREMIX」だからなのだ!

▶発酵文化人類学とはなにか? ソトコト2016年6月号掲載 

近年サードウェーブ系コーヒーが大流行ですが、僕はお茶派です。

お茶好きになったきっかけは、中国への旅。飲み慣れた日本のお茶と全く違う世界がそこにはありました。フレッシュな緑茶とは一線を画す、重厚かつ濃厚な発酵茶をご案内するぜ。

最澄が日本に持ち帰った発酵茶

日本に初めてお茶の文化を持ち込んだ比叡山の開祖、最澄がはるばる唐から持ち帰ったお茶は、おそらく発酵していたであろうと言われています。
このお茶は、団茶(だんちゃ)と呼ばれる、茶葉に麹のようなカビをつけて長期間熟成させた世にも不思議な発酵食品。中国雲南省で飲まれているプーアル茶をさらに濃厚にしたような味わい。茶葉の水分をカラカラに抜いたうえでギュッと固めたブロックの形をしています(全然お茶に見えない)。

団茶は、唐の時代には貢物として重宝されていました。それも理由があって、ゲストが祖国に帰る長旅のあいだにも発酵熟成が進んで劣化しないわけです。

僕も中国で最澄が飲んでいたものに近いお茶を飲んだことがあります。腐葉土一歩手前のテクスチャー、かぐわしすぎる香りに怯みつつ、思い切ってひとくち飲んでみたらば、ガツンと頭と殴られたように覚醒し、心臓バクバク、身体中から汗が吹き出た記憶があります。日常食ではなく、恐らく薬のように使われていたのでしょう(ちなみに値段も目が飛び出るぐらい高かった)。

日本文化に根付かなかった発酵茶

さてそんな薬効あらたかな発酵茶ですが、残念ながら日本には根付かなかった。重厚な味わいがニガテでフレッシュさを好む僕らのご先祖は、発酵菌によってではなく、手でワシワシ揉むことで茶葉の酵素と旨味を引き出すことを選んだのでした(何事もせっかちな民族なことよ)。
まあでもそれもわからなくはない。塩味や甘味が強い日本の郷土食には、発酵茶の苦い味なじまないのさ。

発酵茶の末裔、高知の碁石茶

でもね、実はまだ残っているんだよ、最澄のお茶の末裔が。

高知県には、碁石茶という知られざる発酵茶の文化が残っています。

いやあ。さしもの発酵デザイナーも驚いたね、このヘンテコなお茶には。

蒸した茶葉にカビを付けるところまでは団茶と一緒。そしてそこからさらに茶葉に湯を加えて重しをし、漬物にしていく。つまり乳酸発酵させていく。なんと二段構えの重発酵茶なわけよ。

原理としては、恐らくまずカビを生やすことによって茶葉の細胞組織を破壊し、漏れだした内容物を乳酸発酵によって酸味や旨味に変えているのだと思われます(乳酸菌は植物の細胞膜に自力で入っていく力がない)。

で、味はといえば、酸っぱくてやや苦味を感じつつ、全体的には爽やかな仕上がり。ほら、最近オシャレ健康マニアの間で流行っているkombucha(紅茶キノコ)ってあるでしょ、あれにちょっと近い感じがあるので、いずれトレンドの発酵食品になるかもしれません。

最澄の持ち帰った発酵茶の文化、1000年以上の時を経て日本でもリバイバルするのではないか…と期待しちゃうぜ。

 

なお、本場中国には団茶やプーアル茶以外にも様々な発酵茶があります。味も香りも千差万別で、利き茶が激烈に楽しい。作法を重視して「道」になった日本茶に対して、あくまで味の多様性を楽しむ中国茶カルチャーの豊穣さよ。お酒好きのヒラクですが、もしお医者さんから禁酒命令が出たらば、茶道楽に移行したいと思っています(たぶん酒道楽よりお金かかるけど)。

【追記】最澄が持ってきたお茶の木のオリジナルが、比叡山の山中の茶畑に現存しています。この畑でとれたお茶は政所茶と言われ、滋賀や京都で飲むことができます。老舗のお茶屋さんに数年間熟成させた政所茶を振る舞ってもらいましたが、とても日本茶とは思えない味でした。おいしかった〜!


 

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